ここでは、原告側が求めている「公開捜査」とは具体的にどういったものを指しているか、「指名手配」とどう違うのか、説明いたします。この違いが分かると、この裁判の争点の一番重要な部分がご理解頂けると思います。

このようなポスターは、交番や駅などでよく見かけるかと思います。

 

このようにポスターやWebなどを使って広く情報を募る事を「指名手配」だと思っていらっしゃる方も多いでしょう。現にポスターの見出しは「重要指名手配」です。しかし、「指名手配」とは、このように「ポスター等で名前・顔写真を出して、広く一般から情報を募る事」を意味するのではありません。

 

実はこの裁判を理解する上では、この違いを把握する事が重要なので、少しややこしい話ですが、是非最後までお読みください。

 

現行犯を除き、警察が容疑者を拘束しようとして公開捜査に至るまで、次の3つの段階が存在します。

 

1.逮捕状を取る

2.全国指名手配

3.公開捜査

 

まず、警察が犯人と思う容疑者の身柄の拘束しようとする場合、現行犯を除き、逮捕状を取ることによって容疑者の身柄を拘束する権限を得ます。令状を出す裁判所は、あくまで身柄を拘束する事に許可を与えただけであって、容疑者の情報を広く公開する事を承諾したのではありません。逮捕状を取る目的は、あくまで逮捕の目的は逃亡や証拠隠滅の防止を目的として身柄を拘束する事であって、その為には詳細な事実関係が明確に分かっていなければならないという訳ではありません。

 

誰々に対して逮捕状が出たという情報を公開する事は、却って逃亡や証拠隠滅の機会を与えてしまうケースも出てきてしまいます。ですから、逮捕状を取ったという事実は、原則として公表されるべきものではないのです。

 

行方が分からなくなっている容疑者に逮捕状が出た場合、警察はその容疑者の行方を探します。岩手県で起きた事件の場合は、容疑者が県外に出た可能性があっても、原則として岩手県警が探すことになります。それが困難と判断した場合に、全国の警察に容疑者の逮捕と、逮捕後の身柄引き渡しを要請する事があります。これが「全国指名手配」です。この指名手配については、「犯罪捜査共助規則」という法律で、濫用してはいけないと規定されています。指名手配案件が多くなると、各警察署の業務が膨大になってしまうからです。

 

この段階では、逮捕状に関する情報は単に全国の都道府県警で共有しているだけで、広く一般に情報を公開している訳ではありません。

 

それでも行き詰って、広く一般に情報を公開しなければならないとなった時に行うのが「公開捜査」です。

 

写真のようにポスターが貼りだされているのは、「指名手配となった上で、公開捜査にもなったケース」なのです。

 

容疑者の情報を公開するという事は、逮捕の目的である「逃亡や証拠隠滅を防止する」事とは逆効果になる可能性もあり、また誤った公開捜査は重大な人権侵害になり、安易に行われてはならない事になっております。この点を踏まえ、効果捜査を行う要件等を定めた「被疑者の公開捜査について」(リンク先はPDF)という通達が、警察庁から出されています。

 

お父様がこの裁判で求めたのも、まさにこの「公開捜査」の差止です。警察が勝幸氏を疑って逮捕状を出したり指名手配したりする事については、裁判の争点にはしていません。アリバイがあったり動機が見えないにも拘らず、犯人であるかのごとく勝幸氏の名前と顔写真を出している事に対して「止めてほしい」と訴えているのです。